空を行こう 〜 ミュンヘン駐在編 〜

空を行こう 〜 ミュンヘン駐在編 〜

海外生活2カ国6年目。いろんな国を訪問し、いろんな経験をして、いろんな人と出会いたい。そんな想いを募らせるうち、いつの間にかここに至りました。本ブログでは、米MBA留学及びその後の海外経験を中心に記載しています。

【書評】半沢直樹 アルルカンと道化師 (池井戸潤)

先月まで日本では半沢直樹のドラマが流行っていたようですが、ドイツにいる僕は見れませんでした。とはいえM&Aが題材ということで関心もあり、シリーズ最新刊「半沢直樹 アルルカンと道化師」がオーディオブックでも発売されたため早速聴いてみました。

恥ずかしい話、僕は池井戸潤氏の小説を読むのが初めてというだけではなく、彼が銀行出身だったということも読後に知りました。本書の舞台とも言える「組織内の政治的駆け引き」や「融資・買収におけるパワーバランス」があまりにもリアルで、読書中ずっと「一体この著者は何者なのだろう・・・」と不思議に思っていたくらいです。

目次

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購入のきっかけ:フィクションのM&Aってどこまでリアルに書いているの?

日本ででドラマが流行っていたので気になりました。M&Aを舞台に、半沢直樹という主人公が悪代官に「倍返し」するらしい。でもフィクションのM&Aってどういうものだろう、と。

Audibleのオススメで、シリーズ最新刊「 半沢直樹 アルルカンと道化師 」が紹介されていたので、早速購入して聴いてみました。本書は 9時間 と若干長めのオーディオブック。

通常オーディオブックは、週一のランニング中に1.5倍速で聴くだけなのですが、本書はあまりに面白かったため、ランニング後も居間でくつろぎながら一気に聴き終えることとなりました。 

いつもご紹介していますが、僕はAmazon Audibleの会員(月額1500円)で、ランニング中にいつも読書をしています。 毎月届くコインでお好みの一冊を購入できることに加え、会員特典としていろんなセミナーが聴き放題なので重宝しています。

Audible (オーディブル) - 本を聴くAmazonのサービス

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  • 発売日: 2020/09/26
  • メディア: アプリ
 

 

買収成立自体が目的化する

ネタバレになるので詳しくは書きませんが、本書でリアルさを感じたポイントをいくつか。

 

一般的に、M&Aにおける買い手企業は、最終的には株主価値最大化を目指しながら様々な目的により企業の買収を検討します。例えば、技術獲得、人材獲得、事業成長の期間短縮、リスク回避などが目的になりえます。経営者は、M&Aでその目的を達成しうるか、M&Aが適切な手法か、投資収益性がハードルレートを超えるか、リスクを許容できるか、を検討し結論を出す責任があります。

ただ、買い手の関係者の中には、その目的達成は横に置き、「買収の成立自体がゴールとなる力学」が働く輩もいます。その一つが、買収手数料を事業収益としてM&Aアドバイザリーサービスを提供する証券会社や銀行です。

本書は、銀行内に間違いなく存在するこの力学に対して誰がどう抗うのか、がストーリーの中心。「組織の論理で振り切った悪代官」 vs 「顧客の立場に立つ半沢」の争いをスリリングに表現していて驚かされます。 

 

買収と融資の合わせ技で交渉

本書は、銀行のM&Aアドバイザリー部門の顧客(買い手企業)が、その銀行の別の顧客・融資先を買収検討するという展開。正直、こういうケースが実際どの程度起こりうるのかはわかりませんが、ここで実践した「銀行がその融資継続判断を握っているという強みを活かして買収交渉する」という手法は、事業会社での投資しか経験のない僕にとってはかなり新鮮に感じました。

って、かなりエグい合わせ技なので、実際こんなことをする輩はいるのだろうかとも思いつつ・・・

 

逆の情報の非対称性

通常、M&A時には買い手企業が売り手企業のことを綿密に調査・分析するデューデリジェンスが行われ、可能な限り、情報の非対称性を埋めるプロセスがあります。一方で、買い手企業のみがある情報を保有していて買収を優位に進めるシーンも見られます。これを「逆の情報の非対称性がある」とも呼ぶそうです。

本書のストーリーの骨格は、まさにそういった逆の情報の非対称性の是正。

実際の書籍の帯には「探偵半沢、絵画の謎に挑む」と表現されているようです。主人公がこの非対称性を謎解きのごとく是正していくにつれて、買い手と売り手のパワーバランスが徐々に変わっていき、そして最後には倍返しになる・・・。

このあたりも読者を魅了するとてもうまい構成・流れだなぁと感心します。

 

著者・池井戸潤氏 = 銀行出身 × 作家 × M&Aアドバイザリー社外取締役 × ...

さて、上述の通り、僕は読書中「著者は何者?なぜここまで組織内の人々の心情把握・表現ができるの?」という疑問がありました。今までで一番謝辞を真剣に読んだ(聴いた)くらいです。でも、答えは簡単でした。元銀行員だったからですね・・・

先日の記事で「強みの掛け算で自分にしかない価値を手にする」と書きましたが、著者がまさにいい例だと思いました。そして本書を読んで「やはりその掛け合わせの接点に注力して強みを磨いていくべき」と改めて感じます。

池井戸潤氏の強み

アドバンストアイ社沿革参照
2014年 アドバンストアイ株式会社の社外取締役池井戸潤氏が就任

 

おまけ:気に入ったやりとり・フレーズ

  • 悪代官:私にあってお前にないものがある、それは権力だ
  • 半沢:人事が怖くてサラリーマンができるか!やれるものならやればいい

今は、転職を経験したり、スキルアップしてある程度モビリティ高めたので、基本こう思えるんですが、 若いうちは思えなかったかもしれません。いずれにしろ、半沢直樹のように常に正義を貫いていきたいものですね。

 

半沢直樹 アルルカンと道化師

半沢直樹 アルルカンと道化師